2012年1月24日火曜日

「懐かしいタマリンドの酸味」


日本に住んで31年の私。思考回路は昔とあまり変わらないが、お腹はすっかり日本人になってしまいました。普段食べているのは日本料理で辛いものもそんなに欲しくなくなりました。それは「ナムプリック・マカーム」を久々口にするまでの話でした。英語でマカームのことは "Tamarind"(タマリンド)といい、日本ではそれほど知られていません。いやいや、知っているタイ人の私でもタマリンドがそんなにすごいのかは最近まで知らなかったのです。ということで、お詫びを兼ねてタマリンドのことを書くことにしました。


名前を聞くだけでよだれが…
市場で売られる甘いタマリンド
「マカーム」という言葉を聞くだけでタイ人の私は、すぐによだれが出てきます。ココナッツミルクをつかわない家庭料理のひとつである「ゲーン・ソム」の酸味を出すためにタマリンド汁が欠かせない材料であるからでしょう。地方によっては世界三大スープのひとつに数えられているあのトムヤムクンにも、ライムの代わりにタマリンド汁を用いるところも少なくありません。


固くて茶色い殻に覆われるタマリンド。中には焦げ茶色の果肉が入っていて、細かい繊維が編んだ根っこのように絡み付いていますが、乾燥していれば簡単に取り出せます。大まかに甘いのと酸っぱいのと2種類あるが、甘いのならそのままドライフルッツとして食べることができます。塩、砂糖、唐辛子をまぶしてスナック感覚で食べる「マカーム・クルック」は女子学生などに大人気。高校時代、授業中に眠気覚ましによく食べていました。対して、酸っぱいほうは中のタネを取り出して日干しした後、お湯を注ぎ、汁を絞ってカレーなどにつかいます。日本人が台所に味噌を日常に置くのと同じ感覚で、タイの人々もこの酸っぱいほうのタマリンドを冷蔵庫に保存しています。


タマリンドのそもそも
実をつけたタマリンドの樹
タマリンドを食べたことがなくてもタマリンドの樹を見ている日本人が多いかと思います。王宮前広場にラーマ5世(1868-1910在位)の命によって街路樹として365本のタマリンドの樹が植えられ、現在もその木陰で占い師や露店の人がのんびりと商売を構えています。地方各地へ行けば、民家の庭に大きな樹であちこちに生えています。若葉(雨期の6~10月)はカレーの材料に、若い果肉(冬の12~1月)は殻ごと潰してにんにくや干しエビなどを加え、ペースト状(ナムプリック)にすれば立派なおかずにもなります。


都会のバンコクから地方各地まで生えているこのタマリンドの樹。原産はアフリカでスーダンを通ってインドにわたり、さらにアラブや東南アジア、そしてラテンアメリカに広がりました。フィリピンではマラリヤに効能があるといわれる葉は、お茶として販売されているとか。タイでも葉は解熱や咳止めに、果肉は便秘解消に、そして木の皮は傷口の治癒にとさまざまな効能があり古くから薬用としても使われてきました。


日本にもタマリンドがつかわれている
甘くて酸っぱい「ナムプリック・マカーム」
アフリカから東南アジア、はてはラテンアメリカまで植えられたタマリンドの樹。葉や果肉に比べてタネはあまり活用されていないかと思いきや、製紙や繊維、食品などの産業でかなり使用されていることがわかりました。しかも、それを多く輸入・活用しているのは、日本の企業だとか。


固くて茶色いタマリンドのタネの内部は、真っ白な粉々状になっています。それを繊維やソースなど食品の粘着性を引き出す効果があり、近年日本の企業はそれをタイやインドから盛んに輸入しています。中には医療用に再加工して高価格でヨーロッパにも輸出されているとか。日本ではあまり知られていないタマリンドですが、案外皆さんの身近にあるものですね。


2年ぶり友人からもらった「ナムプリック・マカーム」に、にんじんやキュウリなど生野菜を添えて食べた今日、長い間忘れていたタマリンドの酸味や祖母の味、そして小さい頃の思い出などが次々と湧いてきます。懐かしく思うとともに、タマリンドのすごさを改めて実感した次第です。



0 件のコメント: