2014年1月17日金曜日

「コメ農家も反政府集会へ」

年明けても、タイでは反政府集会が続いています。今月13日(月)に3回目の大規模な集会を前にして、公務員をはじめ、一般市民の集会参加を呼び掛けようと、幹部は小規模な集会をほぼ毎日開いています。そんな中、これまで政府支持をしてきたコメ農家の一部が自分たちの集会を開き、道路封鎖を始めています。
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Q:これまでは農家や低所得者の多くは現政権の支持者だったのでは?
インラック首相の兄・タクシン元首相時代から、与党は低所得者のために無料に近い治療費を内容とする医療制度を確立させたり、現政権になってからは市場価格よりはるかに高い値段でお米を買い上げたりして貧困者の多い東北地方や北部地方の農家らを優遇する政策を行ってきました。とりわけ、農家らにお米を高価格で買い上げることを政権誕生した2年前から実施し、人気を集めてきました。けれど、運営方法をはじめ、国際競争力の低下、そして贈収賄の諸問題が相次いで報告され、次第に納めたお米へのお支払いが滞ってしまっています。今週から、北部5県の農家らは幹線道路を閉鎖してお支払いを要求しています。

Q:なぜお支払いができていないのでしょうか?
価格設定と運営方法に大きな問題があったと言われます。
まずは、1トンにつき市場価格よりも15000バーツとはるかに高く設定したため、実際想定した収穫量よりもお米が多く集まってしまいました。それは、運営方法に問題があると言われます。
1) 本来農家ではないのに、農家から納品権利書を買って隣国のカンボジアなどから安いお米を仕入れて、政府に納め大儲けしたお米問屋がたくさんあったこと
2) 政府としては一般市民に特別に安い価格で小売りを行って上昇した物価水準をさげようとする政策も行っていました。それを悪用しようとした業者が、自ら一端政府に納めたお米を今度は安い値段で落札して一般市場に流通させずに再度政府に高価格で収める。その悪循環がつづいています。
3) 政府が保管しているお米がたくさん売れ残っています。一昨年から昨年にかけて世界的にお米の豊作がつづいています。タイ米よりもベトナムやインド産のお米の方が安く、各国もそれらを輸入するように切り替わりました。ますます古いお米が売れにくくなり、いまだに2年前のお米が在庫にたまっています。当然、在庫管理のコストもかかっています。
4) 悪徳業者のなかには、与党関係者が絡んでいると言われます。
そのほかにも、たくさんの漏れが起きていて、もはや政府が決定した予算額では賄いきれない状態がつづいています。

Q:お支払いをしないと農家も困ってしまいますし、政府も支持基盤を失ってしまうのでは?
支払うと言いつつ、これまで2~3回延期しています。政府系農業組合銀行の責任者曰く、その資金がないとしています。そこに、政府は財務省公的財務管理局に対してさらに政府系農業組合銀行のお米補助金制度向けに期間3年の総額6億ドルの債券発行を命じていますが、野党らは、これは以前の予算額ではないことを理由に、解散後の暫定政権では決定する権利がないと反対しています。また、これを許可すると、銀行の財務負担割合を超えてしまい、経営リスクを引き起こしかねないと政府系農業組合銀行の幹部も反対しています。

Q:農家らはどうするんですか?
支払ってもらった農家は引き続きこの施策には満足していますが、支払ってもらっていない農家は今月15日の支払い延長締切日を境にバンコクに出てきて大規模な反対運動を計画しています。経済学者によると、今回例えば6億ドルの資金調達ができても、未払い分の数分の一に過ぎないものだといいます。一方、高価格で買い上げてもらい、お金を入手した人はさらに早場米を生産開始して、また国庫に納めようとしています。この米買い上げ政策を止めない限り、コメ生産・輸出がだめになり、ますます財政圧迫にもなります。

Q:古いお米を売らないとだめですよね。
昨年、この問題が表面化したときに、インラック政権は中国とG to Gによる売買を成立させ、中国が古米を買ってくれると大々的に発表しました。ここにきて、これも実際は中国の業者が数万トンのみを安く購入しましたが、関税局の記録などには、政府対政府の売買によるコメの輸出がまったくありませんでした。たんなるごまかしに過ぎないとの報道があります。
また、在庫米の量も定かではありません。収支も売れていないお米の金額を上げて損失分を実際より少なく見積もったと、財務省会計監査のトップが公表しています。それで、市民らが反対している訳です。

Q:これだけ政府が政策的に失敗していれば、今度の選挙で勝負が決まるのに、なぜ野党や反政府運動の皆さんは選挙反対なのでしょうか?
選挙管理委員会の一部、選挙に多大な影響をもつ県知事、群長、町長、警察らは政府よりの人間で占めています。公平な選挙ができない、またばらまき政策が蔓延することにもなる。これが反対派の主張。

Q:今後はどんな展開になる?
今月13日に3度目の大規模な反対集会を決行することになっています。当初は役所の電力停止も考えていたようですが、次第に公共交通も商業施設も通常通り動くと少しトーンダウンしているものの、大規模になることは間違いありません。たくさんの国家公務員が参加していれば当然行政運営に支障が出てきます。反政府集会側としては、政府の機能麻痺を引き起こすことが狙い。

また、タイ航空など政府系企業では、昨年の赤字経営は現政権よりの経営者のせいだとして独自のストを発表して一部のフライトディレーも起きうるとの通告がきています。

Q:かなりの大混乱になりそうでしょうか。
かなり大規模な集会になり、混乱も避けられない可能性が高いですね。これまでの集会は数百万人では、選挙ボイコットした時以外、平和裏に行われました。ただ、第三者による嫌がらせや扇動が起きないとも限りません。
これについては、インラック首相は「非常事態宣言」を辞さないとして陸軍司令官に軍派遣の要請を検討してほしいとしたが、軍は現時点で武力による衝突がなく、派遣を断っています。そのうえで、市民らに死傷者が出た場合、軍部は市民を保護すると答えています。専門家によると、軍部としてはクーテターは起こさないが、武器をもって集会を混乱させるグループ/人には真正面から対処するとして首相の命令に従わないものと同等だとしています。

Q: 2月2日に予定している選挙は行われますか?
立候補届の妨害や、南部6県の選挙管理委員会の総辞職、1人しか立候補届のない選挙区が複数あることなどなどから、現時点では選挙が行われても議会が開会できないそうです。

→インラック首相が総辞職するか、反対派が解散するかでしか解決策がありません。次に政権を担う人がどうやってコメ農家らに未払いになっている代金の資金調達ができるのか、さらにASEAN経済圏ができた2015年に農家はどのように失った競争力を回復させることができるか、問題が山積みです。とりわけ、大混乱にならないことを祈っています。